丹波の恵みを語る
丹波をテーマに関連のある方々へのインタビューやエッセイをご紹介。
丹波への思いや、かかわりについて語っていただきます。
色々な方々の目に映る様々な角度からの魅力をお楽しみ下さい。
悠久のロマンに満ちた「氷上回廊」の中心地
兵庫県の中央東部に位置する丹波市は、阪神間からJRや自動車で約1時間30分から2時間の地にあり、北東側は京都府と境を接しています。
丹波市の魅力をひと言で表現すると、やはり“人と自然の共生”ではないでしょうか。
瀬戸内海へ流れる加古川と日本海へ注ぐ由良川をつなぐ低地帯「氷上回廊」の中心地であり、山と川が織りなす豊かな自然に恵まれた里山風景が広がっています。
特徴的なのは、奇跡の自然地形といわれる、本州で一番低い標高わずか95.45mの中央分水界が通っていることです。丹波市氷上町石生(いそう)にある「水分れ(みわかれ)」と呼ばれる地域を中心に、南からの瀬戸内海式気候と北からの日本海側気候が混在し、多くの生きものたちが南北を行き来する交差点になったことから、全国的にみても貴重な生物多様性の宝庫となっています。
また、私たちの祖先が旧石器時代からここに住み続けていることが発掘調査でわかっています。当時の石器はもとより、季節移動するナウマンゾウの群れを追い込んだとされる落とし穴などが丹波市春日町の七日市(なぬかいち)遺跡から見つかりました。狩猟採集の時代から始まった土地の歴史は、2万5千年以上の時を刻んで現在の暮らしへとつながる、悠久のロマンに満ちたまちでもあります。
多様な生物と多彩な風景に出会える場所
丹波市では、日本海側の河川に生息するといわれていた川魚のヤマメが、瀬戸内海側に生息するアマゴ(ヤマメの近縁種)と混生しているのが見つかっています。加古川水系の源流部となる渓流には、ホトケドジョウ、スナヤツメ、アカザなどの希少な淡水魚をはじめ、両生類のオオサンショウウオやヒダサンショウウオなどが生息しています。里地里山の特徴的な植物のほか、シロシャクジョウなどの希少植物も市内で発見されています。
そうした多様な生物が存在する背景には、氷上回廊の影響と同時に、このまちに暮らす人々の積極的な環境保全活動があります。
また、昭和63年(1988年)、丹波地域を「丹波の森」と位置づけ、その翌年には行動指針となる「丹波の森構想」が策定されました。それから30年以上にわたり、緑豊かな伝統文化など地域の特性や資源を活かしながら、人と自然と文化、産業の調和した地域づくりを住民、事業者、行政が一体となって推進しています。
平成27年(2015年)には、丹波市青垣町遠阪地区が環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山」として全国500カ所の一つ「重要里地里山500選」に選定されるなど、良好な里地里山の生態系が保たれた、次世代に残していくべき豊かな自然環境が息づいています。 私は生まれも育ちも丹波市です。 子どもの頃に自然のなかで遊んだ記憶は一生の宝物です。毎日、川や山で過ごし、昆虫や魚の名前、その捕り方、食べられる木の実など、遊びを通してたくさんのことを学びました。 自然好きは年齢を重ねても変わりません。私の子どもが小さいときには、近くの川でよく遊びました。また、14年ほど前からはじめた早朝の山登りを習慣にしています。黒井城跡のある城山(しろやま)に登っていますが、春夏秋冬それぞれに趣きがあり、一日として同じ表情はないと感じます。特に自然の雄大さを感じるのが「丹波霧」です。城山頂上から望む一面の雲海は絶景です。一人でも多くの方に自然の美しい景色を知っていただきたいと思い、10年前からSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通じて雲海などの写真を発信するようになりました。登り始めた頃は穴場的な場所でしたが、現在では黒井城の名が全国に浸透するほど有名な雲海スポットになっています。余談ですが、雲海は、晩秋から冬にかけてよく見ることができます。その時期は私の感覚ですと、三日に一日ぐらいは見ることができるのではないでしょうか。 季節の花を楽しめる向山(むかいやま)もオススメです。向山は中央分水界の通る水分れ公園を囲むように連なる山で、全国的にも珍しいヒカゲツツジの群生地として知られています。向山の登山道で出会った多くの登山客が異口同音に「こんなに綺麗な場所は他にはない」とおっしゃっていました。私も初めて見たときの感動は今でも忘れられません。 この土地ならではの生物多様性や風景美は、私たちの誇りとなっています。
丹波の地が育む全国に誇る特産品
丹波市は、氷上回廊を介して瀬戸内海式気候と日本海側気候が出会い、双方がもたらす自然の恩恵によって、豊かな農作物や食文化を育んできました。特に秋から冬に発生する丹波霧が象徴する昼夜の寒暖差は、おいしい作物が実るための絶好の条件です。 丹波特有の土や水、気候風土から数々の名産が生まれていますが、特筆すべきは、丹波市のスターコンテンツである「丹波栗」「丹波黒大豆」「丹波大納言小豆」です。それらの歴史は古く、当時の朝廷や幕府に献上されるなど、伝統的に名物であったことが知られています。農家の皆様が歴史や伝統を連綿と受け継ぎ、技術を守り高めてきたことで、全国に誇る特産品となっていることから「丹波三宝」と名づけ、幅広くPR活動を行っています。 もう一つ、丹波黒大豆を熟成させる前に収穫する「黒枝豆」も人気です。「一度食べてとりこになった」や「これほどおいしい枝豆に出会ったことがない」など、うれしいお声がたくさん届いていると生産者から聞いています。 引き続き、「丹波三宝」をはじめとした農作物の普及に努め、丹波ブランドの価値の向上につなげていきます。
氷上回廊と丹波市の魅力に触れる
「氷上回廊水分れフィールドミュージアム」
私は大学時代を東京で過ごしました。大学で知り合った友人に生まれ故郷を聞かれた際に、水分れの話をよくしました。しかし、中央分水界の解説を含め、こと細かに説明してもなかなか理解してもらえませんでした。
そこで思いついたのが、「海面上昇100m」の話です。もし北極や南極の氷が溶けて海面が100m上昇した場合、瀬戸内海と日本海の海水が水分れで合流し、本州を分断する新しい海峡ができてしまうと説明すると、丹波市の地理や地形の特徴をスムーズに理解してくれました。
当時は、例え話の感覚で用いていましたが、40年以上が経過した今、地球温暖化が世界的な課題として急浮上し、海面上昇の問題もあらゆるメディアで取り上げられています。
氷上回廊は、現代を生きる私たちが「自然の共生をどのようにしていくか」といったテーマを見つめ直すための貴重な地域資源であるといえます。
令和3年(2021年)3月にリニューアルオープンした「氷上回廊水分れフィールドミュージアム」では、お子さまからご年配の方まで、幅広い世代に向けて、氷上回廊の価値や丹波市の魅力をわかりやすく発信することはもちろん、環境保全の重要性に改めて気づく、自然とともにある暮らしの素晴らしさに共感できる施設になるよう、工夫を凝らした展示やイベントなどを積極的に展開していきたいと考えています。
誇りを持って「帰ってこいよと言えるまち」
をめざして
家族や友人が誇りをもって「帰ってこいよ」と言える、そして、市外で暮らす皆様が「帰ってきたい」「住みたい」と思える、そんな人々が集まってくる魅力的なまちを市民の皆様と一緒に創っていきたいと考えています。
今回ご紹介した氷上回廊をはじめ、丹波市にはたくさんの魅力があります。
「たんば“移充”テラス」や「農(みのり)の学校」など、移住・定住希望者に向けて、行政と民間事業者が一体となったユニークな取組も行っています。
丹波市に帰ってこられる方にとっても、移住される方にとっても、人と自然の共生する丹波市のさまざまなフィールドで、四季折々の自然とふれあい、地域や人との交流を通して、一人ひとりにとっての丹波市の魅力を感じていただけたらうれしいです。
林 時彦(はやしときひこ)プロフィール
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