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峠のふもとの集落・遠阪の地形
青垣町遠阪地区は、丹波市の一番北西のはしにあって、加古川と円山川との中央分水界になっている遠阪峠の東側のふもとにあります。
この遠阪峠は、丹波と但馬(兵庫県の北部)をむすぶ大事な街道になっていて、昔は人や馬、荷車が、時代が変わって車やトラックがたくさん行き来していました。今では遠阪トンネルができて峠を通る車は少なくなっています。
遠阪地区には、今出、遠阪、和田、徳畑の4つの集落があって、まわりを山に囲まれ、加古川で一番上流にある遠阪川の流れが谷をつくり、その川に沿って集落と水田や畑があります。
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街道を行きかう旅人でにぎわった遠阪の歴史
遠阪地区にある遠阪峠は、丹波国と但馬国の境になっていました。
丹波国側に「佐治」という駅家(役所や旅館があったところ)、但馬国側には「粟鹿」という駅家があって、その真ん中にあった遠阪は、旅人がひと休みする場所として店が立ちならんでいました。
江戸時代に全国を歩いて測量し、正確な日本地図を完成させた伊能忠敬もここに立ち寄って泊りました。
また、集落には井戸が少なかったため、川や池から水を引いた水路「まち溝」をつくり、そこで炊事や洗濯、風呂水に使いました。
今でも街道沿いの屋敷には、敷地内に引き込んだ「まち溝」が残っています。
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人は山から自然の恵みをもらって生きてきた
昔から遠阪地区の人たちは、ご飯をたく時に燃やす木の枝や暖房の燃料に使う薪、食べ物となる山菜やきのこなど、たくさんの自然の恵みを山で手に入れて、谷間の土地で田畑をたがやす暮らしをつづけてきました。ほかにも山にスギやヒノキを植えて、育った木を切り倒す林業で集落がにぎわいました。また、このあたりでは生糸をとる「養蚕業」が盛んで、近くの山のふもとには、カイコのエサとなるクワの畑がたくさんありました。
このように昔から遠阪地区の山には、いろいろな人の手が入り、美しい里地里山がつくられてきたのです。
でも、最近では林業をする人が少なくなって山の手入れが行きとどかなくなりました。
そのために山に水をたくわえる力が低くなって、台風や大雨の時にたくさんの木が倒れて川に流れ込んだり、山が崩れるなど、災害がおきやすくなっているといわれています。
また今、日本全国の山で、シカがたくさん増えすぎて、森の木や草、畑の農作物などが食べつくされる被害が大きな問題となっています。
丹波市内で、シカを捕まえて増えすぎないようにしたり、畑のまわりに電気が流れるフェンスを張るなど、山の動物から森や暮しを守るようにしています。
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遠阪で守られてきたいろいろな植物
遠阪地区には、里地里山らしい植物がたくさんあります。
2~3月にはセツブンソウ、ニリンソウ、3~5月にはアズマイチゲ、4~5月にはクマガイソウ、イチリンソウ、4~6月にはクリンソウなどの花が咲くなど、涼しい気候を好むめずらしい草花を見ることができます。
めずらしい野生生物がのっている兵庫県版レッドデータブックという本がありますが、クリンソウ・アズマイチゲ・クマガイソウは大変数が減っているBランクに、セツブンソウは数が減っているCランクに指定されています。
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遠阪の川には、国の特別天然記念物がすんでいる
加古川の一番上流になる遠阪川や今出川には、さまざまな生きものがすんでいます。冷たくてきれいな水を好むマスの仲間のアマゴやヤツメウナギの仲間のスナヤツメ、めずらしいスズキの仲間の淡水魚オヤニラミ、ドジョウの仲間のホトケドジョウ、コイの仲間のアブラハヤなどの魚を見ることができます。
また、大変数が少ない国の特別天然記念物のオオサンショウウオも遠阪の川で生きています。
ほかにもカエルの仲間も豊富で、春から夏にかけて、木の枝に卵を産むモリアオガエルやニホンアカガエル、カジカガエルなどの鳴き声を聞くことができます。
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遠阪の川や森、草むらは、昆虫の宝庫
春から秋にかけて、遠阪地区ではたくさんの種類の昆虫 を観察できます。
5~6月夜には、羽化したゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルの成虫が
光りながら飛ぶ姿を見ることができます。
中でもヒメボタルは、森の中にいるホタルで、飛
びながら黄色く光るのが特徴です。4~11月に見られるトンボの種類は多く、「生きている化石」と 呼ばれるムカシトンボが発見されたり、日本で一番小さいといわれるハッチョウトンボやアオハダトンボやミヤマアカネなど数が少日本を代表する
蝶といわれるオオムラサキが飛んでいる姿などが見
られます。
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里山にすむ生きものについて学べる青垣いきものふれあいの里
青垣いきものふれあいの里は、身近な自然の中で野鳥や動物、植物の観察を通じて、自然の大切さや人とのかかわり方を学ぶところです。
ここでは、オヤニラミやカジカなど、たくさんの淡水魚を見ることができるほか、四季の植物や野鳥の紹介、氷上回廊についての展示もしています。
また、施設のまわりの林には、約3kmの散策路があって、季節ごとの自然観察をすることができます。1年を通じていろいろな活動をおこなっていて、バイガモという水草やヒメボタルなど、数が少なくなっている生きものについて調べたり、守る活動にも取り組んでいます。
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豊かな里地里山を未来へ伝えたい地元の人たちの活動
自然環境を守ることは、まちづくりの一つと考えている遠阪地区の人たちは、地区にある自然や歴史など、いろいろないいものを見つけ、それをまちづくりに活かす活動に「遠阪楽校100年先の人づくり」という名前をつけて、さまざまな取り組みをしています。小学生の環境学習「川のいきものしらべ」をおこなったり、夏にはヒメボタルやゲンジボタルの観察会をするほか、毎年2月には、小さな白い花を咲かせるセツブンソウの時期にあわせて「セツブン草祭り」などのイベントを開くなど、里山の自然をいかした活動をしています。
そして、もっと都会の人たちに遠阪の自然にふれてもらおうと、今出川のほとりの「今出せせらぎ園」では、水車を使って粉をひいた手打ちそばを食べたり、せせらぎの夕涼みなど、川遊びイベントを開いています。
また、地元の人たちとアサヒグループホールディングス(株)
で
働く方々が力を合わせて、都会の人たちが森を守る活動を体験するエコツーリズムイベントを毎年おこなっています。これからも遠阪地区の人たちは、遠阪の自然をふれあいの場にして、エコツーリズムにつながるいろいろなイベントを開きたいと考えています。