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春のきざしを告げる不思議な花 セブツンソウ

昔から親しまれてきた「春の妖精」
"Spring Fairy" has been popular since ancient times

その名の通り節分の時期に咲き、どの花よりも早く「春が来るぞ!」と告げるように咲く花、セツブンソウ。寒さをしのいで美しく咲くその姿に魅了される人も少なくありません。

高さは5~15cm、土の中にある球状の塊根(かいこん)から茎をのばし、先端に輪状に並ぶ総苞葉(そうほうよう:花をつける茎の基部を取り囲む変形した葉)をつけ、その中心から1cm前後の花柄(かへい:花を支える茎)を出して直径2cmほどの白色の花を咲かせます。花びらに見えるものは、植物学的には「がく」で、基本的に5枚あり白色で卵形をしています。本当の花びらは先端が黄色になっている小さいY字型のもので、黄色い部分は蜜腺(みつせん)になっていますが、これも基本的に5つです。草質(くさだち)は非常にか弱いものですが、力強く上を向いてまさに「咲き誇る」感じに見えます。

分類学的にはキンポウゲ科セツブンソウ目に属しています。学名は「Eranthis pinnatifida」。古名を「以倍爾礼(いえにれ)」といい、平安時代初期の植物事典、『本草和名(ほんぞうわみょう)』にもその名をみることができますので、千年以上昔から人々に親しまれてきた植物ということになるでしょう。

セツブンソウやイチリンソウのように、ほかの花に先駆けて冬の眠りから目覚めて咲き、ほかの草花が茂る頃には幻のように地表から姿を消し、次の開花期まで長い間地中で命を繋いでいる植物は、ヨーロッパなどで「スプリング・エフェメラル」とよばれています。これは「春のはかない命」という意味です。また、その愛らしい姿と短い開花期間から「春の妖精」とも。ロマンチックですよね。

植物としてのセツブンソウ

セツブンソウは日本固有の品種ですが、その分布は関東以西に限られています。土壌的には石灰質を好む傾向があり、林の床や山裾の半日陰、草原などにみられる多年草です。

しかし、もともと特殊な環境にのみ生育するな植物である上に、高度経済成長期以降は開発の進行などにより姿を減らしつつあります。環境省のレッドリストでは準絶滅危惧に指定されており、兵庫県では準絶滅危惧種(Cランク)という位置づけで、存続基板が脆弱な種として評価されています。

セツブンソウの自生地は、兵庫県内では丹波市のほか姫路市、宍粟市、たつの市、佐用町、朝来市、丹波篠山市で確認されています。全国では栃木県栃木市、埼玉県小鹿野(おがの)町、長野県千曲(ちくま)市・辰野町、滋賀県米原市、広島県庄原(しょうばら)市などに群生地があり、小鹿野町では町花に指定されています。
一方で園芸品種としても人気があり、栽培は簡単ではありませんが、全国の愛好家に親しまれています。

セツブンソウを地域の宝に

青垣地域では、東芦田地区、小倉地区、森地区、遠阪地区の4つの地区に咲きます。いずれも地元の人たちの手によって保護されていて、花の季節にはイベント等も開催、多くの人たちが可憐な姿を愛でようとやって来ます。

前述のように、セツブンソウは特殊な環境でのみ生育する希少な植物ですので、環境条件が変わってしまうとその地で生きられなくなってしまいます。また、そう簡単に増やしたり移植したりできるものではありません。つまり、セツブンソウを守るということは、それまでと変わらぬ生育環境を守るということにほかなりません。

今回は東芦田地区でセツブンソウの保護活動をおこなっている江古花園(えごはなえん)運営員会のみなさまに、現状や保護活動の内容、地域との関わりなどについてうかがいました。

東芦田自治会長
 芦田八郎氏
丹波佐治川自然の会
代表 長井克己氏
江古花園運営員会の皆さん
Q1
セツブンソウは昔から江古花園に自生していたのですか。

  • もともとは竹之内という集落があり、その林道沿いに自生していたんですよ。林道の人通りが少なくなる中で、地域の貴重な植物なので何とか残したいと、地域おこしの一環で2003年に開園した江古花園の活動の一つとして移植したんです。もともとの自生地は全滅していまして、移植して残しておいてよかったなと思います。
    現在、東芦田でセツブンソウが咲く場所は江古花園のほか、柴居(しばい)自生地・江古端(えごばた)自生地と3か所あるのですが、柴居自生地は河川改修でもともとあった自生地がなくなるので、横の土地に移したところ条件が合ったのか、ものすごく増えたんですよ。

Q2
こちらのセツブンソウは、いつ頃花を咲かせるのですか。

  • 1月末頃から咲き始め、2月上旬が見ごろになります。青垣の群生地の中でも、東芦田が一番早く咲くんですよ。毎年花が咲く時期にあわせて2月第一または第二日曜日に「節分草まつり」を開催しています。

Q3
保護活動では、具体的にどのような作業をしていますか。

  • 実は、手がかからないんですよ。定期的に草刈りをするくらいで。自然のものですから。あまり人の手が入っていないところで咲く花なので、なるべく自然な状態になるよう心がけています。
    ただ、ここはイノシシの通り道になっていますので、注意して管理しています。イノシシに踏みつけられると弱ってしまいますし、球根まで掘り起こされると大変ですので、必要に応じて柵を設置するなどの対応をおこなっています。
    セツブンソウは放っておいても種が落ちて増えていくので、種が土まで落ちるよう下草だけはしっかり刈らないといけないですね。暑い時期は大変ですけれど、当番を決めてあぜの除草を兼ね定期的に草刈りをしています。また、「節分草まつり」に花が間に合うよう、開花前にシートをかけるなどの温度管理をすることがまれにあります。
    以前に広島県庄原市の自生地を視察したことはありますが、有識者の方からの指導などを受けたことは特にないですね。

Q4
保護活動によりセツブンソウは増えているのですか。

  • 最初に竹之内から移植したのは20~30株くらいですが、現在、自生地の面積は3か所合わせて100㎡くらいにまで広がりました。
    昨今の気候変動による大きな被害や変化は特にありませんが、2023年の夏は暑かったので少し心配ですね。我々は見守っていくことしかできないですけど。

Q5
セツブンソウは丹波の環境に合っているのでしょうか。

  • セツブンソウは酸性土壌では育たず、アルカリ性土壌を好むんです。青垣はアルカリ土壌が多く、そういう中でセツブンソウは息づいてきているんですよ。
    面白いことに、丹波市の中でもセツブンソウが群生するのは青垣地域だけです。氷上地域へ移植しようとしたことがあるのですけれど、土が合わずうまくいきませんでした。「水分れ」のある丹波の生物多様性は、土壌の質も関係しているのかもしれませんね。

Q6
セツブンソウがコミュニティに貢献している部分も多いのではないのでしょうか。

  • もともとこのグループは集まっていろいろな話を交わすのが目的でしたから、活動はコミュニケーションの場です。メンバーは現在11人ですが、地域の人たちもセツブンソウが咲くのは楽しみにしていてくれて、散歩がてらに観察している人もいますし、「もうすぐ咲くなぁ」と話題になったりもしますし、関心を持ってくれているのではないでしょうか。
    環境保全というのが私たちの活動のコンセプトで、かやぶき民家の修復から活動をスタートさせたんですよ。それをベースに周辺の環境を保護し、昔と変わらぬ農村景観を守っているのです。中でもセツブンソウとハスは付加価値を生んで、「節分草まつり」や「はす祭り」を楽しみにしてくれる人が多いんですよ。毎年開催する「節分草まつり」では観光バスも来ますし、関西一円のみならず広島や千葉から来られる方もいます。都市との交流の機会ですね。最近はInstagramを見て来る若い女性も多いですよ。

Q7
活動の今後の課題や展望は。

  • 20年前は民間の環境保全活動に関する基金があり、助成を受けて運営していたんですよ。ところが昨今、そういうのが少なくなって、活動資金で苦労しているのが正直なところです。活動拠点「すずめの宿」の屋根の改修もしたいのですが…。
    あとはメンバーの高齢化ですね。できるだけ若い人に関わってもらって、活動を継続していかないといけないと思います。
    セツブンソウは種から開花するまで、条件が良くても3年はかかるんですよ。ですからそう簡単に増えるものではないので、これからも地道に活動を続けていきたいですね。